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神話&伝承紹介Part5:テュール

※当記事の詳細は「神話&伝承紹介」をご覧下さい

天空・調停の神 軍神
出典…北欧神話
両親…父:ヒュミル 母:?(美人であること以外詳細なし)
象徴…剣


■ 様々な役割を経た軍神 ■

北欧神話の最高神といえばオーディンですが、元々は雷神テュールが主神でした。
ところが、3世紀ごろから戦争の神であるオーディンが人気になり、軍神にまで降格。
雷神の立場としても、今ではオーディンの息子のトールが有名になっていますね。
加えて、調停の神の役割も担っていたことも、ほとんど知られていないでしょう。
「フェンリル捕縛(後述)時に、(調停の神なのに)両者をとりなすことができなかった」
と、「ロキの口論」で触れられているので、間違いないかと。
幻神テュールも「強くなりたいのは、世界の秩序を守る為だ」と話していますね。

片腕を失った後はフォルセティに法の役目を譲り、軍神一直線です。
の割にほとんど戦う姿は出てきませんが、狂犬ガルムと相打ちで最期を迎える場面は有名。
片腕でガルムと張り合えるレベルから、かなりの腕前だったことが想像できます。
オーディンが首を吊ってまで習得したルーン文字にも「テュール」があり、
戦いの際に、勝利を祈ってこの文字(テュール)を剣に刻んだと言われているほどです。

ちなみに、12ヶ月がローマ神話の神様由来なのに対し、曜日は北欧神話の神様が由来。
テュールもしっかりここに名前が入っていて、Tuesday=テュールの日です。
他の曜日は、Wednesday=オーディン、Thursday=トール、Friday=フレイヤorフリッグです。


■ ヒュミルの歌 ■

テュール神の資料は少なく、紹介できそうな数少ない話の1つが「ヒュミルの歌」です。
内容はテュールの衝撃的家族と友人トール大暴れのつっこみどころ満載のドタバタ劇。
※この話での「テュール」とは戦の神のことでロキ神を指すという説がありますが、
ややこしくなるのでここではテュール神として扱います。

あるとき、戦の神々が狩りを終え、その獲物を使って宴を開くことにしました。
しかしこの神様たち、身分差をいいことにエーギルの館に図々しく押しかけたので、
「君たち全員に振舞えるビールを作れる大きさの鍋なんてないから、用意してきてね」
と、キレた(当たり前です)エーギルに追い返されてしまいます。
ヴァイキング大好き、なければ奪えな北欧神話の神たちなので、
新しく作るという考えなどなく、巨大な鍋なんてどこにあるかと超真剣に悩みます。
神様が揃って悩んでいる様子を見かけたテュールが、何事かと訳を聞くと、
「エーリヴァーガルの東の天の縁に住んでいる賢者ヒュミルが、
大きい鍋を持っているからそれを使えばいいよ」
と提案します。何を隠そう、テュールの実家です。

テュールはトールを連れて、久々に実家に帰省することになりました。
家で最初に出迎えたのはテュールと不仲の祖母。久々の息子を不満そうに睨みます。
この婆様、頭が900もあるのでど迫力。テュールは慣れっこですがトールは引き気味です。
次に美人な母親が出迎えます。母とは仲が良く、テュールは鍋をもらえるか相談します。
「あの人ケチで客人に対して威嚇するから難しいわね。
いきなり攻撃し出すかもしれないから、あなたたちを鍋の下に隠して様子を見ましょう」
あまり会いたくないタイプですが、仕方ないので大人しく鍋の下で待つことしばし、
帰ってきたのは、凍った髭にツララをぶら下げた醜い巨人でした。
……テュールは間違いなく母親似ですね。腕力はあまりない部分も含めて。
「お帰りなさい。久しぶりにテュールが帰ってきていますよ。
ほら、お友達のヴェーオル(トールの別名)さんと破風の柱の影にいるでしょう?」
妻の発言に機嫌を損ねたのか、ヒュミルの目つきが鋭くなり、次の瞬間、
柱が砕け、梁が折れ、天井が落下。掛かっていた鍋も一番大きい鍋以外全壊です。
祖母同様、父ともあまり仲は良くない模様。どっちにも似ていないから……?
目からビーム出す父親と頭が900の祖母。この家庭で育ったなら心身ともに強いのも納得w

そんな破壊亭主なヒュミルですが、客がトールとなると力任せに追い返すことはできず
牛3頭でもてなしますが、トールは1柱で2頭分食べてしまいます。食べすぎですw
食糧庫の危機を感じたヒュミルは、翌朝トールを釣りでの勝負に誘います。
成果はというと、ヒュミルはどこかから苦情が来そうな鯨2頭、
トールは……なんとヨルムンガンド。なぜ釣られたヨルムンガンド。
ヨルムンガンドは逃げてしまったので、「釣り上げる」勝負はヒュミルの勝ちですが、
敗北感は拭えず、家に帰ると、一見脆そうなガラスの高脚杯を出し挑発します。
「お前の腕力は認めるが、これを壊せないようならまだまだだ」
なんだこんなもの、とトールが杯を柱に投げつけると、粉々になったのは石の柱でした。
さすがにこれには渋い顔をするトール。そこに美人母がこっそり助言します。
「あの人の頭にぶつけちゃいなさい。きっとうまくいくから」
……笑顔で過激な発言をするあたり、やはりヒュミル家の一員です。
強靭な頭蓋骨のヒュミルは無事でしたが、頭にも精神にも大打撃を受け撃沈したようです。

やっと鍋を入手した2柱ですが、帰り道、頭がいっぱいな人たちの襲撃に遭います。
トールが暴れまくって帰路も難を逃れましたが、本当にテュールは戦わない神ですね……。
なにはともあれ、巨大鍋を持って帰る目的は達成できたので、めでたしめでたし、かな?


■ フェンリル捕縛 ■

ロキの子供たち、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルは、災いをもたらすと予言され、
ヨルムンガンドは海に捨てられ、ヘルはニヴルヘイムへ追放されたが、
フェンリルだけは神々のもとで育てられることになりました。
しかし狼は狼、餌を与えるのも勇気が要ります。
唯一その勇気があったのがテュールだったそうです。

ところが、日に日に大きくなり凶暴さを顕著にしてきたフェンリルを見て、
このままでは危ないと、フェンリルを拘束する作戦に出ます。
神々は「鎖を壊して力を見せてくれないか」 とフェンリルを挑発します。
レージングという鎖を試してみると、フェンリルはあっさりとを引きちぎってしまいます。
次にドローミという鎖を使ってみても、少し苦戦はしたもののやはり同じ結果でした。
最後に用意したのは、鎖ではなく紐状のグレイプニル
フェンリルはこれを見て嫌な予感がしたようで、挑戦を拒みます。
ですが神々に、ちぎれなくても後で開放するとしつこく宥められ、
「その約束を守る担保として、誰かが口の中に腕を入れるなら乗ってやる」
という条件を出します。でもできる神なんかいません。だって騙しているんだから。
しかし、その覚悟ができていた神が1柱だけいました。
テュールが右腕をフェンリルの口に入れたのです。
結果、フェンリル捕縛の代償として右腕を失い、片腕の神になってしまったのでした。

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